— 思いつきが実装に変わるまで:仮説検証・工程分解・優先順位付けまでのAI活用術
はじめに:AIに“正解”を求めると、だいたい遠回りになる
最近の報道では、AI利用で脳活動が低下する可能性を示唆する話もある。
ただ私は、AIが悪いというより “使い方”の問題だと考えている。
AIを「答えの代行装置」として使えば思考がサボりやすい。でも、壁打ち相手として使うなら、むしろ思考は深くなる。
そこで今回は、答えを出す装置ではなく、壁打ち相手としてAIを使っている私の使い方を紹介したい。
生成AIの使い方として一番多いのは「質問→答え→満足」だと思う。
検索エンジンより賢くなり、知りたいことに近づくための装置としての使い方だ。
でも、それで解決する場合はいい。
大抵は質問が曖昧であったり、与える情報が少ないのでAIからの一次回答になっている。
だから具体的なやりたいことを実現・実装しようとした瞬間に多くの人がこう感じる。
「AIって結局、使えないよね」
これはAIが弱いというより、“細部の霧”が晴れないまま進んでしまうことが原因だ。
そこでAIは“答えを出す装置”ではなく、実現性を炙り出す壁打ち相手として使うと、突然強くなる。
この記事では、私が普段やっている
「思いつき→仮説検証→工程分解→実装→エラー解決→運用改善」
の流れを、再現できる“型”としてまとめる。
1. 私のAI活用は「議論」ではなく「仮説検証」から始まる
アイデアは突然湧く。例えばこんな感じ。
- ローカルLLMをどう運用すれば、コストと性能のバランスが取れるか?
- サーバレスで通知→判断→発注→監視まで回せるか?
- 会話ログを保存して、次の意思決定に“使える知識”として再利用できるか?
- VRMアバターとAIを繋いで、人格UIとして動かせるか?
ここで大事なのは「面白いね」で終わらせないこと。
私はまず、AIに“YES/NO”を聞かない。代わりにこう聞く。
- 最小構成ならどこまでできる?(MVP定義)
- 実現に必要な要素は何?(依存関係)
- 詰みポイントはどこ?(落とし穴)
- まず確認すべき前提は?(要件の穴埋め)
つまり、思いつきが可能かどうかだけでなく、
どんな方法があり、どこまで実現でき、何が難所で、何が必要かを詰めている。
この時点でAIは、回答係じゃなくて設計レビュー係になる。
2. 私が回している「仮説検証ループ」(これが基本形)
私の中では、AI活用はほぼこの流れで固定されている。
アイデア
→ 実現性の条件抽出
→ 工程/リソース見積(タスク分解)
→ MVP設計
→ 実装
→ エラー解決(切り分け)
→ 運用改善(バックログ化)
ポイントはひとつ。
実装に入る前に、“見えないもの”を減らす。
これだけで成功率が上がる。
3. そのまま使える:フェーズ別「テンプレ質問」
ここからは実践用。私はこの質問セットを何度も回している。
フェーズA:実現性を判定する(構造を掴む)
目的は◯◯。実現したいことは△△。
1) 最小構成(MVP)なら何ができる?
2) 必須の技術要素(API/権限/制約/外部サービス)は?
3) 想定されるボトルネック/失敗要因は?
4) 代替案(Plan B/C)は?
5) 最初に確認すべき前提条件は?
フェーズB:工程とリソースに落とす(現実化する)
上のMVPを実装する前提で、
1) タスク分解(WBS)を10〜20粒度で出して
2) 難所(技術難易度が高い工程)に印をつけて
3) 検証手順(先に潰すべき不確実性)を優先度順に出して
4) コストが跳ねるポイント、運用で詰むポイントも挙げて
フェーズC:実装前の安全確認(事故を防ぐ)
運用を想定して、
1) ログ設計(何を、どの粒度で残すべきか)
2) 監視とアラート(異常系の検知点)
3) リトライ/タイムアウト/重複実行の扱い
4) セキュリティ上の注意点(鍵、権限、公開範囲)
5) ロールバック/復旧手順の最小案
この3フェーズを通すだけで、「いけそう」が「いける」に変わる。
4. “細かい質問”が最強な理由:実装は細部で死ぬ
アイデアは抽象でも進む。
でも実装は、抽象のままだと止まる。
- API制約(レート、レスポンス形式、権限)
- 認証方式(トークン、署名、期限)
- データ構造(どこに何を保存し、どう参照するか)
- 例外系(失敗時の再実行、重複、欠損)
- タイミング(イベント駆動、定期実行、遅延)
- 運用(監視、通知、コスト、保守)
だから私はAIに、細部をしつこく聞く。
しつこさは正義。実装者の執念が、システムを安定させる。
5. 実装フェーズ:AIは「エラー解決」と「設計判断」の相棒になる
実装が始まると、AIの使い方は変わる。ここは壁打ちの真骨頂。
5-1. エラーは「症状→原因→切り分け→対策」の順で聞く
私は、いきなり“修正コード”を要求しない。まず切り分け。
いま起きている症状は◯◯。
ログは△△(貼る)。
1) 原因候補を複数挙げて(確率が高い順)
2) 切り分け手順を優先度順に出して
3) それぞれの手順で「何が分かるか」も説明して
4) 修正案は安全重視/速度重視で2案出して
5-2. 修正前に必ず聞く(場当たり修正を潰す)
この修正の副作用は?
再発防止のために追加すべきログ/テストは?
仕様として正しい挙動はどっち?
ここを挟むと、修正が“改善”になる。
挟まないと、修正が“借金”になる。
6. 追加要件と課題が出たら「優先順位」を握り、AIに記憶させる
実装を始めると、必ず増える。
- 「ここもこうしたい」
- 「運用でこういう困りごとが出そう」
- 「例外系が抜けていた」
この時、全部にすぐ対応しない。
対応するとプロジェクトが溶ける。だから私は優先順位付けをAIとやる。
6-1. 優先順位の基準(4軸)
- Impact(効果):成果が大きいか
- Urgency(緊急性):放置すると事故るか
- Risk(リスク):致命傷(誤動作/損失/情報漏えい)に繋がるか
- Effort(工数):すぐ終わるか、重いか
この4軸で、ざっくり分類する。
- P0(即対応):事故・損失・セキュリティに直結
- P1(次のリリース):効果大だが今は止めない
- P2(余裕があれば):改善だが低優先
- P3(保留/捨てる):やらない理由が明確
6-2. “AIに記憶させる”のは、仕様より「判断理由」
ここが地味に効く。私はAIにこういう形で残す。
追加要件:◯◯
優先度:P1
理由:Impact大、ただしRisk低。Effort中。今やると他が止まる。
暫定策:△△
次の判断条件:××が起きたらP0に上げる
AIを“記憶する壁打ち相手”にすると、
次に同じ論点が出たとき、判断が速くなる。迷いが減る。進み方が変わる。
AIに相談するだけでは進まない。
優先順位を固定し、判断を積み上げて残すと、プロジェクトは前に進む。
7. 私の「実現」の定義:動いたら勝ちじゃない、運用できたら勝ち
最後に、私の中で「できた」の基準はこうだ。
- ログが残り、後で検証できる
- 監視と通知があり、異常に気づける
- 失敗時の扱い(リトライ/キャンセル/重複)が設計されている
- セキュリティが最低限守られている
- バックログが整理され、次の改善が見えている
ここまで揃って初めて「勝ち」になる。
AIは“完成”より“改善”に効く。だから私は、AIにバックログを覚えさせ続ける。
おわりに:AIは“答え”を出す装置じゃない。最強の壁打ち相棒だ
生成AIは万能じゃない。むしろ、間違う。盛る。自信満々で外す。
だから「答え」をそのまま採用すると危険だ。
でも、問いを立てて、細部を詰めて、工程に落として、運用まで見渡す。
この使い方なら、AIは驚くほど頼れる。
繰り返すが、AIは“答え”を出す装置じゃない。
実現性を炙り出し、実装の詰まりを突破し、判断を積み上げる壁打ち相棒だ。
そして、その相棒がいると、アイデアは「思いつき」で終わらない。
ちゃんと“形”になるはずだ。
















