前回の記事では、AIが売買シグナルを受け取り、「買う」「見送る」「保有する」を判断する Portfolio Layer を実装しました。
これで一通り自動売買の骨格は完成し、「あとは売買ロジックをどんどん追加していけば精度は上がっていくだろう」と考えていました。
しかし、実際に動かし始めると、まったく違う問題が見えてきました。
ロジックを改善したくても、本当に改善したのか分からない
新しい売買条件を思いつくたびに、
- RSIを追加してみる
- 移動平均線を増やしてみる
- エントリー条件を少し緩めてみる
そんなことを繰り返したくなります。
ですが、ここで一つ疑問が湧きました。
「本当にその変更で良くなったのか?」
昨日条件を変え、
今日また条件を変え、
明日もさらに変更する。
これでは、あとから振り返っても何が効いたのか分かりません。
開発者の「良くなった気がする」だけで進めるのは、とても危険です。
そこで、思い切って方針を変えることにしました。
一週間、ロジックを一切変更しない
今回決めたルールは非常にシンプルです。
一週間は売買ロジックを変更しない。
その代わり、
徹底的にデータだけを集める。
見る項目は、
- 売買候補は何件出たのか
- 条件を満たしたものは何件だったのか
- なぜ見送ったのか
- 仮に条件を変えていたら結果はどうなったのか
です。
つまり、
改善する前に、まず理解する。
この考え方へ大きく舵を切りました。
今回作ったのは売買ロジックではなく「評価システム」
今回追加したのは、新しいトレード手法ではありません。
代わりに作ったのは、売買ルールを評価するための仕組みです。
例えば、
- 売買候補が何件発生したか
- 実際に条件を満たした割合
- 条件を満たさなかった理由
- 「もし条件を少し変えていたら」という仮想的な結果
こうした情報を、自動で記録・分析できるようにしました。
これによって、
「この条件は厳しすぎる」
「この条件は意味がない」
「この条件は利益に効いている」
ということを、感覚ではなくデータで判断できるようになります。
AIを賢くする前に、
AIを正しく評価できるようにした。
これが今回一番大きな成果でした。
一番意外だった発見
実は今回作ったPlaybookは、一度も売買条件を満たしませんでした。
最初は、
「条件が厳しすぎたのではないか」
と思いました。
ところがデータを見てみると、違いました。
市場の大半がレンジ相場だったのです。
今回のPlaybookは、押し目買いや戻り売りなど、トレンドが発生した場面を狙う設計になっています。
ところが、その相場自体がほとんど来ていなかった。
つまり、
ロジックが悪かったのではなく、ロジックが活躍する相場ではなかった。
この事実は、評価システムを作っていなければ気付けませんでした。
「ガードレール」という考え方を導入
最近の生成AIには「ガードレール」という考え方があります。
これは、AIが能力を発揮するための機能ではありません。
危険な要求や想定外の動作を防ぎ、安全に動作させるための仕組みです。
この考え方を見たとき、
「トレードシステムにも同じものが必要ではないか」
と思いました。
どれだけ優れた売買ルールでも、
- 相場が急変している
- 短時間で連敗が続いている
- シグナル同士が矛盾している
そんな場面では、利益を狙うことよりも、
「今回は取引しない」
という判断の方が重要になります。
私は、この安全装置の層を「ガードレール」と呼ぶことにしました。
道路のガードレールが車を速く走らせるための設備ではなく、事故が起きたときの被害を最小限にする設備であるように、自動売買でも「勝つ仕組み」と「負け方を制御する仕組み」は分けて考えるべきだと思っています。
これまで私は「どうすれば利益を増やせるか」という発想で開発を進めていました。
しかし、このガードレールという考え方を取り入れたことで、
利益を生み出す仕組みと、安全を守る仕組みは別々に設計する
という、新しい設計思想にたどり着きました。
「作る」から「育てる」へ
これまでは、
新しい機能を追加することが開発でした。
しかし、今は考え方が変わっています。
これからは、
- データを集める
- 評価する
- 改善点を一つだけ決める
- またデータを集める
このサイクルを繰り返していきます。
派手ではありません。
しかし、本当に利益を出し続けるシステムは、この地道な積み重ねの先にあるのだと思います。
おわりに
今回、一番大きな収穫は新しい売買ロジックではありませんでした。
「どうやって勝つか」
ではなく、
「どうやって正しく改善するか」
という仕組みが見えてきたことです。
AIは魔法ではありません。
思いついたアイデアを次々と実装しても、長く勝ち続けるシステムにはなりません。
だからこそ、
改善する前に評価する。
この当たり前のことを、自動売買システムにも取り入れることにしました。
次回は、この評価システムによって集まったデータをもとに、Playbookをどう育てていくのか、その結果も含めて紹介したいと思います。




















