– AI ManiaX –

“Thinking with AI, building with AI.”

売買シグナルでは市場は見えなかった──市場理解のアーキテクチャを考え直した

開発ツールとともに、仮想通貨の売買システムも見直してみました。

数年前から、私はAIを使った仮想通貨の売買システムを開発していました。

EMA、RSI、出来高、大口約定など、複数のテクニカル指標を組み合わせ、売買シグナルを生成する、ごく一般的な構成です。

当時としては十分機能していました。

しかし、数年ぶりにシステムを見直していて、あることに気付きました。

このシステムは市場を見ていたのではなく、「シグナル」だけを見ていた。

これが今回の再設計の出発点です。


市場はシグナルではない

一般的な売買システムは、

このような流れになっています。

Market Data
      ↓
Technical Indicator
      ↓
Trading Signal
      ↓
Decision
      ↓
Execution

例えば、

  • ゴールデンクロス
  • デッドクロス
  • RSI30
  • RSI70
  • MACDクロス
  • 出来高スパイク

こうしたシグナルが発生すると、

「買う」

「売る」

という判断を行います。

もちろん、この考え方は間違いではありません。

しかし一つ疑問がありました。

市場は本当に、シグナルが出た瞬間から動き始めるのでしょうか。


ゴールデンクロスは突然現れない

例えばゴールデンクロス。

EMAが突然交差するわけではありません。

価格が変化し、

短期EMAが徐々に近付き、

距離が縮まり、

やがて交差します。

つまり、

ゴールデンクロスは

結果です。

市場の中では、その前から変化が始まっています。

RSIも同じです。

出来高も同じです。

大口注文も同じです。

シグナルは、

市場で起きている変化の「観測結果」に過ぎません。


市場を「状態」として考える

そこで今回は、

市場をシグナルではなく

状態

として考えることにしました。

例えば上昇相場なら、

下降

↓

下降減速

↓

横ばい

↓

上昇準備

↓

上昇開始

↓

上昇継続

↓

過熱

↓

反転準備

市場は常に、

どこかの状態にあります。

シグナルは、

その状態が一定条件を満たした時に発生するイベントです。

つまり、

シグナルを見るだけでは、

市場全体の流れは見えません。


そこでForecast Layerを考えた

この考え方から生まれたのが

Forecast Layer

です。

従来は

Indicator

↓

Signal

↓

Decision

でした。

これを

Indicator

↓

Forecast Layer

↓

Signal

↓

Decision

へ変更します。

Forecast Layerの役割は、

シグナルを出すことではありません。

現在の市場状態から、次に起こりそうなイベントを推論すること。

例えば、

  • あと数分でゴールデンクロスになりそう
  • RSIが反転しそう
  • 出来高が立ち上がってきた
  • 大口注文が集まり始めている

これらは全て、

市場状態から導かれる推論です。

Forecast Layerは、

こうした推論を共通のインターフェースで扱います。


Forecastは「予言」ではない

Forecastという名前を付けましたが、

未来を言い当てる魔法ではありません。

むしろ、

現在の市場状態から

最も起こりそうな状態遷移

を推定する仕組みです。

重要なのは、

何を使って推論したかではありません。

EMAでも、

RSIでも、

出来高でも、

板情報でも、

ニュースでも、

SNSでも、

最終的には

「市場状態から導かれる推論」

という同じ形式になります。

つまり、

Forecast Layerは、

アルゴリズムではなく、

市場理解を共通化するレイヤーです。


AIもルールベースも同じ場所へ

この構造にすると、

Forecast Layerの中身は自由に交換できます。

ルールベースでもいい。

LightGBMでもいい。

Transformerでもいい。

LLMでもいい。

新しいモデルが登場しても、

Forecast Layerを差し替えるだけで済みます。

下流のSignalやDecisionは変更する必要がありません。

これはソフトウェアアーキテクチャとしても大きなメリットです。


Replay Frameworkも同じ発想

今回もう一つ作り始めたのが、

Replay Frameworkです。

市場を過去データで再生し、

Forecast Layerがどのような推論を行うかを検証できます。

リアルタイム市場だけに依存すると、

一回の検証に何時間もかかります。

Replay Frameworkがあれば、

数か月分の市場を短時間で再生できます。

つまり、

市場理解そのものを高速に改善できます。


AIが進化したから設計も変わる

今回の再設計で実感したことがあります。

AIが進化したからといって、

そのまま売買精度が上がるわけではありません。

むしろ重要なのは、

AIが推論しやすい形で市場をモデル化することです。

AIは万能ではありません。

市場をどう捉えるか。

どこまでを状態とし、

どこからをイベントとするか。

その設計の方が、長期的にはシステムの性能を左右します。


おわりに

今回の再設計で目指しているのは、新しい売買ロジックではありません。

市場をどう理解するか、そのアーキテクチャを作り直すことです。

シグナルは重要です。

しかし、

シグナルだけでは市場全体は見えません。

市場には状態があり、

状態は遷移し、

シグナルはその途中で現れる一つのイベントです。

この考え方が正しいかどうかは、これからReplay FrameworkとForecast Layerを使って検証していきます。

結果がどうなるかはまだ分かりません。

ですが、少なくとも以前よりも、「市場そのものを理解しよう」という設計に近づいたと感じています。recast Layerの検証結果、実際のシミュレーション結果なども順次公開していく予定です。